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「クロアゾネ」には、続きっぽいペーパー「クロアゾン(手書き)」がついてきます。
「手書きwww」「文集かwww」と知人が揃ってだいばくしょうですが、読んでもらえたらうれしいです;;

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・3の後、関ヶ原に向けて暗躍する佐助と、脱水底した幸村の話
・宴の佐助ストーリーより後くらい
・の冬
・大谷がちょっと出て来ます
・あの輿ふしぎ
・真田家の男は大体刺青入ってる
・っていう設定が活かしきれてない感じが残念
・作中、真田兄(沼田)から手紙が来ます
・上田ー沼田ー日光は鳥居峠越えて直線100キロくらいと意外と近いらしい
・という感じの地理感覚

・表紙はフジタさん(九頭)が描いてくれました
・フジタさんありがとう
・印刷所はポプルスさんにお願いしました
・ほんとうにありがとうポプルスさん



>>>



 便所は、ひいらぎの花の匂いがした。
 霜の降りる頃には、暮れ六はもう暗い。冬場は屋敷の者が囲炉裏端に寄って、順々に夕飯を済ませる。八つ時を過ぎれば辺りは黄昏の気配がした。夏のように膳だのなんだのと言っていては、真っ暗な中で冷や飯をつつく羽目になる。ただでさえ気の滅入る季節に、進んでそんなせつない思いをしたがる者があるはずもなく、自然手の空いた者から囲炉裏の鍋に箸を伸ばす。
 鍋の中身はだいたいお定まりで、雉か鴨かの鳥の日か、たまに牡丹の入る日があって、あとはみんな芋の日だ。芋でなければほうとうで、とにかく冬は腹が減る。腹が減って仕方がない。確かに火の周りには魚が刺してあるし、豆腐も味噌をつけて焼いてある。鉢には野沢菜の盛ったのがあるし、食いたければ食いたいだけ食ってどうということもないのだけれど、やはりそこは横や後の者への遠慮がある。
「幸村様、魚」
「いや、もう食べた」
「あ、じゃあちょっと」
 あぶらが鼻の奥でつんと香る。
「川の魚が食べられるのももう少しですねえ」
 白い身が骨から離れて、やわらかい湯気を立てる。
「ザッコ掬いは寒いからなあ」
 頷きながら芋を食う。漬け菜の塩辛いのが喉にしみた。
 とにかく冬は腹が減る。
 だから早々に寝たというのに、目が覚めた。
 耳が冷たい。ふとんから突き出した頭が、じいんと痛むほど冷えた。風呂から出て、頭を拭かなかったのが悪かったらしい。小便がしたい。まだ寝入ってさほど経ってはいないようだというのに、小便に行きたい。
 外は、閉じた目にもわかるほど月が明るかった。
 こういう夜は、ことさら冷える。
「むう……」
 幸村は往生際悪く、ふとんの中にまるまって、便所に行きたいのをごまかそうとした。
 けれどもそれで腹の中のものがなくなるわけもなく、二、三、ごろごろと転がって、幸村はようやく雪隠に立った。
 冬の便所ほど面倒なものはない。板の間は歩くだけで足が冷えるし、雪の晩には肥もゆばりも皆凍る。しかも、目が覚めれば、腹が減ったのを思い出す。
 寝ぼけまなこでしぶしぶ冬障子を開ければ、案の定、腹が鳴った。
 うさぎが食いたい、と張りついた目を擦って、煙のような息を吐く。
 庭の椿は、月光を浴びて凍りついたように白く光っていた。
 霜が降り始めてから雪が降るまでの間が、年の内で一番食いものがつまらない。
 うさぎ、熊、アオジシ、鹿、猿、と雪の後の食いものを考えながら、幸村は便所の格子をぼんやり眺めた。外が明るい。
 満月は済んだというのに、とあくびをすると、小便の湯気に混じって、花の匂いがした。
 白。
 それで、急に、目が覚めた。
「ひいらぎか……」
 目が覚めた。
 格子の向こうに、濃い青の葉が見える。丸葉と棘のある葉が枝に半々になっていて、子供時分にずいぶん不思議だった。その葉の根元に、白い花がぎっしり詰まって付いて、水で溶いた蜜のような、澄んだ香りを夜陰に放つ。
 冬というのが、すとんと腹の中に落ちた。
「おお」
 常より大きく身震いして、幸村は竿を振った。
 冷える。寒い。腹が減る。
 冬か、と幸村はその花を見た。
 小さく、細々と、香りばかり無限のように溢れ出す。
 そういえば、佐助がこのにおいを嫌がった。ふと思い出して、目をやった格子の向こうに、裏木戸をかたんと鳴らして、提灯の明かりがひとつやってくるのが見えた。
「佐助」
 無言で明かりが目の高さに上がる。
 人を誰何するのより、自分の顔を隠すしぐさだ。暗がりで姿を隠すには、光の裏側に立つのが一番いい。屋敷の中へまで入っておいて、隠すも隠さぬもあるまいとは思うのだけれども、佐助はまだ、里で躾けられたのだろう癖をなくさずにいた。
「だんなあ」
 なにしてんの、と忍の声が格子をくぐる。
「便所だ」
 何もくそも、と言うと、そりゃそうね、と明かりはまた音もなく忍の足許を照らした。
「寒いね」
 外へ出るなら紋付きを使えと言うのに、佐助が提げているのはまた黄ばんだ無紋の古提灯だ。特に気に入りというわけでもないようなのに、日頃どこに隠してあるのか、家中の者が取り替えさせようとしてものらりくらりとごまかしてしまう。
 便所の戸を出ると、ぬっとその提灯が手水鉢の上に突き出した。
「手洗いなよ」
 ほら、と千両の株の越しに柄杓を出して、佐助は提灯を揺らした。
「ちんちん腫れるよ、ちんちん」
「腫れるか馬鹿」
「わかんねーよ、旦那ちんこいじり方下手だもん」
「おまえと一緒にするな。おれはおまえみたいに薬がいるほどこねくり回したりはせぬ」
「あっ、なんであんた知ってんだよ」
 差し出した手に水を掛けて、佐助は顔を歪めた。
「ふん」
 吐き出す息が白い。
「便所から戻る度に青い顔をしていておもしろいと言っていたぞ」
「してねえよ! ちょっとしみただけじゃん」
「おまえ自分でよくそんなになるまで触れるな」
 吊した手拭いが凍っているのを見て、幸村は帯の辺りでてきとうに手を拭いた。
「ちょっとなにその言い方! あん時は単に運が悪かったんだよ!」
「病気に運もくそもあるか」
「病気じゃねえし!」
 どうだか、と幸村は着込んだ佐助の足許を見た。
「ところでこんな夜中にどこへ行っていたのだ、佐助」
 んっ、と忍は妙にかわいらしい声を出した。
「夜中って?」
「朝か今は」
「あんたが早寝しすぎなんだって。まだ暮れ六過ぎじゃない?」
「こんなに冷えて暮れ六でたまるか。熊でも死ぬぞ」
「いやあ、だから人間様にはあったかいおふとんがあるんじゃないかなあ」
 ふうっと縮めた提灯を吹き消す。一瞬ろうそくの形が目の中に残って、幸村は目を細めた。
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